この症例もとてもポピュラーなものです。恐らく多くの方がその名前を知っていたり、またはご自身も経験されたりしていると思います。
大体、中年になった辺りから肩関節の可動域制限と運動時の強い痛みが出現するようになることが多いようです。
『肩関節周囲炎』とも呼ばれます。
しかし、あまりにありふれた症例の1つとして認識されてしまっているため、この原因をきちんと考えたことのある方(施術家・医師も含めて)がどれほどいらっしゃるでしょうか?
これから「四十・五十肩」の原因の説明をさせていただくのですが、その前に大変重要な考え方であり、現象でもある「トリックモーション(代償行為・代償動作)」についてお話をいたします。
この現象は、例えば腕を上に挙げる(挙上する)という動作を遂行するにあたって、身体のどこか一部を傷めているとします。このような場合、傷めている部位をその他の部位に力を入れることでかばいながら、通常とは違う身体の使い方で「腕を挙上する」という目的を遂げますね。この現象を「トリックモーション」といいます。
本来はあくまでも「傷めている部位」や「動かすと痛い部位」をかばうための現象なのですが、最近、ここ20〜30年位の人達の身体の動きは、「どこも傷めていない」・「どこも痛くない」にもかかわらずそれぞれのトリックモーションで彩られているのです。要するに、身体本来の「理に適った動き」から遠く離れた「理不尽な動き」でがんじがらめになっているということです。

では何故わざわざ「理不尽な動き」にとらわれているのでしょう?

この年代の人達は、家でも学校でも会社でも「素早く、力強く、きびきびとした」動作ばかり求められてきた世代です。日本全体が工業化→高度経済成長→バブル経済という流れで、「中身よりも見てくれ」でしか物事の価値が判断出来なくなった社会の申し子のような存在なのです。ですから彼等の「理不尽な動き」の根底には何をするにしても「素早く、力強く、きびきびと」動作するという観念が美意識として隠されているのです。ある人にとっては「そうしないと怒られるから」という強迫観念であったり、またある人にとっては「そうすることで他者よりも自分を上に見せる」という虚栄心であったりしますが、そこに絶対的な価値観を置き、それに則って自分自身を飾るということに変わりはありません。
「小手先の動き」という言葉があります。これは物事の本質や中心を捉えていない、形だけの動きということですが、「素早く、力強く、きびきびとした」動作というのがまさにこれに当たります。
「腕を挙上する」という動作を本質や中心で捉えるなら、脊柱→肩甲骨→肩関節というように身体の中枢→末梢という順序になり、これこそが「理に適った動作」として身体にも負担をかけないものです。
ところが「素早く、力強く、きびきびとした動作」にとらわれている人達は真っ先に肘から先の部位、とりわけ掌と手指に力を入れ、その部位を高く位置させようとします。末梢に真っ先に力が入り、しかもその部位主導で動作がなされようとするため中枢にも力が入ります。これは末梢の力に負けて中枢がブレないようにするためです。ですからこの動きは腕を挙上するというよりも、「腕を素早く、力強く、きびきびと挙上する自分をアピールする」動作なのです。当然この動きはパフォーマンスの質も悪く、身体にとっても大きな負担をかけるものです。例えば卓球を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。小手先に力を込めてボールを打ち返すと狙いが定まらないどころかコートにすら入らないこともありますね。そうです、「素早く、力強く、きびきびとした動作」というのは最初の瞬発力だけで、それ以降の力のコントロールが全く出来ないのです。そしてそのような力が特定の部位にばかり繰り返しかかっていると、関節を支える軟部組織が傷つき、反復性の捻挫を起こしてしまうのです。
これでお分かりいただけたでしょうか?
先にも書きましたが、本来トリックモーションとは「傷めた部位」や「痛い部位」をかばうためのものなので、パフォーマンスの質はとりあえず後回しにされても致し方のないところなのですが、現代人は「本質を見失い大きく偏った美意識」にしがみつくためにトリックモーションに走っているのです。

このトリックモーションにおいては肩甲骨の関節窩と上腕骨の骨頭の滑り込みが十分になされず、筋肉の緊張により関節窩と骨頭が密着させられ、「関節の遊び」が失われてしまいます。更に関節は軟部組織の肥厚や癒着も起こし、関節の可動域が狭く、しかも偏ってしまうのです。そして酷使され続ける部位と全く動かしてもらえない部位にはっきりと分かれてしまいます。全く動かしてもらえない部位の軟部組織はどんどん萎縮し硬化します。そして酷使され続ける部位は炎症を起こし、その度に軟部組織が肥厚し瘢痕化してしまうのです。
このような状態になってしまった関節は動かすと痛いので益々動かさなくなり、やがて動かすことが出来なくなってしまいます。これがいわゆる「四十・五十肩」です。

治療を進める中で目指すのは、瘢痕化して癒着した組織をほぐして剥がし、関節面の滑りを確保し、トリックモーションに頼らない「理に適った動き」を練習して身に着けてもらうことですが、たまに、何をどうやっても激痛と腫れが退かないという症例に出会うことがあります。これはこれまで説明してきた状態に加え、関節の動きを良くするための組織である「滑液包(かつえきほう)」が炎症を起こしカルシウムが貯留しているものです。滑液包とは中に潤滑液が満たされた小袋のような組織ですが、潤滑液の中に液状のカルシウムが溜まってしまうのです。これは時間が経つと固まって石灰化するのですが、そうなるまでの間に激痛を伴うようです。このような症例の場合は病院を紹介してレントゲンを撮ってもらいます。カルシウムの貯留が確認されると病院でそれを注射器で抜いてくれますので、痛みは格段に軽減されます。
その後再び、抵抗運動やストレッチ等の運動療法を施せばより良い結果を手に入れることが出来るでしょう。


○正常な肩関節の外転運動


(1)先ず棘上筋の作用により、上腕骨が少しだけ外転を始めます。
(2)次に、この動きに呼応するように、三角筋がより強い外転を促し、肩甲骨も滑動します。
(3)僧帽筋は肩甲骨と上腕骨の動きがブレないように補助的に緊張するのが身体本来の理に適った動きです。


○トリックモーションによる外転運動の1例

(1)まず手指、掌を上に挙げる準備として、手指から前腕部を緊張させます。
(2)前腕の緊張に呼応して、上腕から肩関節も緊張を強めます。そして緊張で1本の棒のようになった腕を上に挙げるために首をすくめ、腋も閉じるような力をみなぎらせます。
(3)緊張によって1本の棒のようになった腕を肩甲骨に押し付けた状態のまま、僧帽筋の力で首をすくめながら上方に引っ張り上げます。様々な力で関節を緊張させた大変効率の悪い動きです。